5章 1

第5章  トルー・ルゴトー

 心臓がドキドキしてきた。

(人類が一度滅んだ? 何を言っている?) 

今話された言葉が、まるでつかみどころのないもやのかたまりのように、渡の頭の中を漂った。

(人類は滅んでしまった? そして、ネルルたちは新しい人類? それじゃ……つまり僕たちは……)

渡はその続きを頭では理解できても、心が追いついてこなかった。ルーキオはそんな渡を見かねたのか、落ち着かせるように、じっと渡をのぞき込んだ。

「大丈夫、おれたちが今、ここで生きている。それはみんな、おまえたちがいてくれたおかげだ。過去が常に未来へつながるように。ちゃんと説明しよう。——だが、ここは暗すぎる。いったん出るぜ」

 きっぱりとした口調に、渡は少しだけ落ち着きを取り戻した。ルーキオは渡の手をとって、暗い部屋から明るい廊下へ出た。

 ネルルは、渡に話してしまったことを後悔しているようだった。沈んだ表情だったが、責任を感じたのだろうか、ネルルが口火を切った。

「……じゃあ話すわね。まず、あらかじめ知っておいてほしいのは、あなたたちについて私たちが知っていることは、断片的なものだということ。まだわかっていないこともたくさんあるの。でも、わかっていることもあって……起こったとされているのは、巨大な隕石の衝突があったということ」

「巨大隕石の、衝突」

「……そう。研究では、あなたたち旧人類は、戦争も、疫病も、災害も、環境悪化も、なんとか耐え忍んでいたわ。でも、その日は突然訪れた。巨大な隕石が、地球に……」

「そんな……」

 旧人類を前にしているからだろうか、いつの間にか、ネルルの目に涙が浮かんでいた。

「頼みの木星や他の惑星や小惑星、最後の月まですり抜けて、直撃してしまった。地表の生き物の95%以上が7日以内に死滅し海が一部干上がった。考えるのも恐ろしい状況だわ」

「人間も?」

「ええ。予測によると、人間も、わずかにしか生き延びられなかったらしいわ」

「……。それで、どうなったの?」

「はっきりとはわからない。ここから先は、研究にもとづく憶測になるんだけど……残された人類は、頑丈なシェルターのような場所にいたらしいわ。だけど、保存食料も尽きて、いよいよ絶体絶命のピンチに陥った。そんな中で、その施設内のコンピュータと許される限りの資源を使うことになった。耐久力があり自己発展型ロボットの開発が行われたと考えられているわ。最後に生き残った人間の名は、トルー・ルゴトー。彼の死の間際、五体のロボットが生み出されたの」

「五体のロボット?」

「そう。生命のために、人類が最後につないだもの……それが自己修理可能な高度なロボットだったのよ。彼の死後、すべての命運は5体のロボットに託された。

自律学習型のロボットたちは、お互いの研究により性能を高めあった。厳しい環境でも生き延びられる知的生命体を生み出すために、互いを修復しながら働き続けたの。電力は、地熱発電したものでまかなわれ続けたと伝わっているわ。80年ほど経過した頃だった。赤子同然だったロボットたちの中のAIは加速度的に発展し、とうとう生命を生み出すに至ったとされているわ」

「それじゃ、その時の生命が……」

「いいえ。まだその段階では、地球は熱すぎたの。地下深くの微生物をのぞき、生き延びたものはほぼいなかったはず……。隕石衝突から700年ほどたったころ、海が少しずつ元の姿を取り戻し、地球の温度が、生物が生きていく環境に戻り始めたとされているわ」

「その間ロボットは壊れなかったの?」

「5体のうち2体は電源を切ったり、パーツを使いまわしたりして、何とか持たせていたらしいわ。けれど、それも難しくなって、一体、また一体と、修復不能に追い込まれていった……。やがてとうとう、最後の一体もボロボロになったとされているわ。だけど、彼は間に合った。それまで眠っていた生命体が、海に、そして地上へと解き放たれたの」

「生命体が……」

「生命は多様に進化し、活動範囲を広げたり、環境によって、更なる多様性を獲得したわ。

あなたたちが知っている生き物と同じようにね。ただ、進化のスピードはうんと速かった。ロボットたちが、あえてそうなることを目指したからだといわれているわ。遺伝情報などを工夫し、短い期間で進化が進むように……」

「どうしてそんなことをしたの?」

「ルゴトーは、またこういう大量絶滅が起こることを危惧していたと考えられているの。例えば、あり得ないほど低い確率だけど、また巨大隕石が落ちてくるとして、その時に生命全部が根絶やしになってしまうかもしれないわよね。進化が速ければ速いほど、知的生命体の登場も速くなり、対策できない時間というのは短くなるでしょ?」

「なるほど」

「そういうわけで、過去の生命体とは比べ物にならないほど速く、進化は進んだ。それでも、人類のような知的生命体が現れるのには時間がかかったわ。簡単に言うと、生命の歴史のやり直し。いまから300万年前、ようやく知能の高い類人猿が再び現れたの」

「どうしてまた人類につながるような類人猿が現れたの?」

「一つには、地球の環境が類人猿にとって最も都合が良かったこと。でも、それだけじゃない。一番の要因は、最後のロボット……いいえ、言い換えれば、最後の人間、ルゴトーの願いが奇跡的に影響したのよ。もう一度人類の復活を願った、その想いが……」

 渡は、聞いていて、なんだか胸が熱くなってしまった。

「——それで、人類はどうなったの?」

「ここから、私たちにつながるわ。人類は発明や交易を得て次第に賢くなったけれど、科学の進歩は、私たちに安寧をもたらさなかった。何度も、各地で戦争が起こった……愚かなことに。あなたたちの科学力を超えた後も、戦争は繰り返し起こった。ロボットとの戦争もあったのよ。人類があの時期を乗り越えられたのも、たんなる偶然なのかもしれない……それほどひどい時期があったと伝わっているわ」

「でも、君たちは生き延びた……」

「ええ。生命の尊厳を重視し、生物が存続できる環境と平和の維持を第一とする考えが現れた。でも、それを実現するには、人間という自然とどう向き合うのかという、大きな課題があった。その課題に向かう人間の歩みと同時に、自己を不完全ながらも制御する試みがあちこちで起こったわ。

理想を実現するための思考、その思考を実現できるだけの社会、そして様々な技術を駆使してようやく、戦争の数が徐々に減少して、規模も縮小していったわ。ただ、ロボット技術がさらに発達していったことは脅威だった。ロボット戦争が起こったの」

「ロボット戦争……」

渡は、ポコルンをちらっと見た。どこからどう見ても、ポコルンは平和そうな顔をしている。そんな渡にネルルは気がつくと、慌てて口を開いた。

「ポコルン型ロボットとは別のロボットよ。悲惨な戦争だった。けれども、その後なんとかロボットと人類両者が良好な関係を築き上げたことで、文明は飛躍的に進歩したの……繁栄を極めたわ」

「さっきポコルンが説明してただろ? センターが果たしてくれた人類への貢献は計り知れない」

 ルーキオがそういうと、ポコルンは得意そうだった。

「つまり、おまえたち旧人類は隕石の衝突により滅びてしまったが、おまえたちの努力の成果が、俺たちにまでちゃんとつながっている……。残念ながら、何から何までつながったわけじゃないが……それでも、お前たちの存在が、俺たちを支えてくれたんだ。それこそ、お前たちが生きてきたことの証だ。今の未来につながっているということなんだ」

「気軽に言ってくれるよな! 信じたくないよ!」

 ルーキオの慰めを聞いても、人類が——いや、ほぼすべての生命が滅んだのかと思うと、どうにもやりきれない気持ちになった。自分がやってきたことは、たかが知れているのはわかっている。でも、今までの生命の、そして人類の歴史、そして生命その一つ一つの積み重ねが、巨大な石一つですべて失われただなんて……。

渡は今まで、人間が引き起こす環境への影響や、生物の保全のことを中心に考えていた。だが、よくよく考えれば、地球は宇宙に漂う星の一つで、その広大な星の中では、とてもちっぽけで儚い存在なのだということに、改めて気づかされた。

わかっていたつもりだった。だが、本当にはわかっていなかったのだ。今の今まで。

知らないわけではなかった。よくよく思い起こせば、白亜紀よりも前のぺルム期や他の時代にも、火山の噴火や隕石、氷河期なんかで同じようなことがあったと、どこかで読んだ気がする。宇宙の広さやそこに存在するエネルギーに比べれば、どんな生物も矮小な存在だといわれてしまうだろう。

(それはどうしようもないことかもしれないけれど、だからって……)

ルーキオも、ついには黙りこんだ。渡は、自分の気持ちをなんとか落ち着かせた。

「……怒ってごめん。君らが悪いんじゃないのに。正直に話してくれてありがとう」

「いや……気が動転するのもしかたない。おれたちこそ、悲しませて悪かったな」

「だけど、どうして……」

「なんだ?」

「どうして、僕はこの未来に送られてきたんだろう?」

 兄妹は、渡がつらい気持ちを耐えきれなくなりそうになって話題をそらしたことに気がついたようだった。ルーキオは、ふさふさの顎をこすりながら考えた。

「そこが一番の謎だ。占い師……つまり未来人はタイムマシンを持っていた。だけど、一緒に来ることはせず、渡を送り込んだだけ……いったいなんのために?」

ネルルも腕を組んで考え込んだ。

「何か目的があるはずよ。その占い師が何者か、知ることができたらいいんだろうけど……。今わかってるのは、その占い師が使っていたタイムマシンは、私たちが知っているものとは別物だってこと。タイムマシンを身に着けてないという事は、タイム管理部とは全く関係のないマシンということよね? ポコルン」

「はい。タイムマシンを身に着けずにタイムトラベルすることは、どのような状況、理由があろうと不可能であります」

「だから、おかしいのよ。タイムマシン使用者の動向を記録しない状態でのタイムトラベルだなんて、今の時代では考えられないわ。タイム管理部が許すはずないもの」

「ちょっとまって! さっきもポコルンがタイムマシンの話をしてたけど……ほんとにこの時代にもタイムマシンがあるの?」

 話がややこしくなるばかりなので、渡は思わずネルルを止めた。

「あるわ」

 ネルルは、組んでいた腕を解いた。

「何人かの人間が、過去と現在を行き来しているわ。行動が未来にどう影響を及ぼすのか、研究しているのよ。でも、因果関係は複雑すぎて、結論は出ていない」

「それだけ研究してもわからないってことは……運命は、存在しないってこと?」

 すると、ルーキオは渡をじっとみた。

「おいおい、結論を急ぐなよ。俺たちだって、知らないことやわからないことはまだまだあるんだぜ? 運命が存在しているのかについては何とも言えないが……俺はどちらかというと、存在していない気がする。いや、そうあってほしいな。今の研究から推測されることは、過去、現在、未来は、常に流動しているらしいということだ」

「ルーン、話がずれてるわ。それより問題は、どうしてあなたがここに来るに至ったのか、ということよ。運命なんか関係なくても、何らかの理由があるはずだわ。ここに飛ばされた理由が……。ポコルン、渡の遺伝情報から、他に何かわかる?」

「現在、渡様の遺伝情報をもとに、渡様についてのあらゆる情報を検索している途中でございます。なにぶん古いデータですから、情報の完成にはあと30分ほどかかることになりますが……」

「そっか。どうする? 久しぶりに、センターの中でも見て回る?」

「だが、渡に見せてしまっていいのか? 過去に帰るときに……」

 すると、ネルルは気まずそうに、こそこそルーキオに何か耳打ちした。ルーキオはかすかにうなずいた。

「それもそうか。よし、渡、センターを案内してやるよ。ポコルン、30分間だけ頼む」

「かしこまりました。ではまず一番近い、再生部にまいりましょうか」

 ポコルンはグニュウを乗せたまま歩き出し、3人はぞろぞろとついていった。丸い壁にそって曲がっている廊下を進んでいくと、また分かれ道があったり、階段をのぼったりして、再生部の部屋に着いた。

部屋の中に入ると、そこには水槽のようなものがずらりと並んでいた。ほとんどは空だったが、培養液らしきものの中には、恐竜のような、みたことのない生き物もいる。ポコルンと似た形のロボットが数体、水槽の前で数値を記録していた。

「これは?」

「再生部の再生装置です。遺伝情報をもとに、あらゆる生体を再現、再生することが可能です。素粒子組み立てを可能にした研究部であり、変身体への研究など、生体に関わるあらゆる研究分野に応用されています」

 渡は、なんだか見てはいけないものを見てしまったような気がして、ちょっと気味が悪かった。ネルルは、そんな渡を察したようだった。

「次行きましょ」

 次に来たのは宇宙部だった。渡は、広い部屋の中に入るなり、あっ! と驚いた。巨大な宇宙がボールの中に入っていて、中央には太陽が、そしてその周りを小さな星が回っているではないか!

「まさか! これって、宇宙?」

 すると、宇宙部所属らしきロボットが、渡に近づいてきた。ポコルンによく似ていたが、頭からは二つアンテナが伸びていて、その先は星型だった。

「正確には、疑似的な宇宙シミュレーションとなっております。とはいえ、範囲は太陽系の一部に限られていまして、星の軌道や状態を、疑似的に見られるようにしてあります。太陽も熱そうに見えて温度は0度ですし、ガス惑星なども特殊な物質で構成されております」

「それでもすごいよ! そういえば、占い師が見せてくれた水晶もこんなのだったよ。もっと小さかったけど」

「そういえばそうだったわね」

「ああ……とはいえ、これとは全くの別物だろう。渡が占い師に見せられたのは、おそらく本物の宇宙……つまり、望遠レンズのように拡大することで、時空間座標を決定できるタイプのタイムマシン、ということだろう。聞いたこともないが。こっちはシミュレーション通りに動く、宇宙観測装置……といったところかな」

「宇宙部は他に何をやってるの?」

「他にも多岐にわたります。ロケットの開発、発射実験。宇宙物質……つまり、他惑星や隕石、宇宙空間にある物質の採取、研究。地球化計画のシミュレーション。エネルギー開発シミュレーション。宇宙生命体の調査、研究などです」

「宇宙生命体? 宇宙人ってこと?」

「宇宙人もそうだし、知的生命体問わず、宇宙に存在する生命体ってことだ。現在地球は、2種類の星の異星人を確認しているが……」

「2種類の異星人? てことは、やっぱり宇宙人はいたの?」

「宇宙の広大さからして、いないと考えるほうが難しいさ。ただし、同時期に同程度の文明を持ち、探索可能な範囲にいる確率はかなり低いからな……出会えたのは奇跡的なことだった。とはいえ今は、銀河連盟により、交流は厳しく制限されているがな」

「どうして? ——銀河連盟?」

「銀河連盟ってのは、天の川銀河を統率するため、知的生命体が集まった組織だ。知的生命体の種類は、俺たちが見つけた2種を超えているらしいが、詳しいことは明らかにされていない。

それで、なんで交流を制限するかっていえば、お互いの平和の為さ。考えてもみろよ。科学力に差があれば、どちらかの星が侵略されてしまう……なんてことになりかねない。

そういう事態を防ぐために、地球も銀河連盟に加入した。お互いの星に対して、一切の不干渉に合意しているのさ」

 ネルルも静かにうなずいた。

「銀河連盟の許可なしに別の知的生命体がいる星に渡航することは、今じゃ重罪とされているわ。銀河連盟が持つ技術力は、地球の科学技術をはるかに上回っていて、ありとあらゆる無法者を見張っているの。どういう方法かわからないけど、歴史上のどの時間であろうと、知的生命体がいる星に無断で侵入するような宇宙船は、軒並み検挙されているらしいわ」

「おれたち人類にとっても、他の知的生命体がどういう風に暮らしているのか、どんな文化があり、また科学技術があるのか……知りたいことは山ほどあるが、安全のために制限されているってわけだ。——あと10分か。そろそろ次に行こうぜ」

 ルーキオはこともなげにいうと、次の部屋へと歩き出した。渡は、あまりの話に度肝を抜かれて、ろくに質問もできずにいたが、ここ未来じゃ常識なんだろう。

 次に訪れたのは、創造部だった。創造部に着くなり、グニュウはポコルンを離れ、ミニチュアのアスレチック公園のようなところに入っていった。

「あっ! グニュウ!」

 ポコルンは慌ててグニュウを追ったが、別に慌てる必要はなかった。グニュウは、ちょうどいいサイズのブランコをぶんぶん乗り回しているだけだったからだ。

「ニュウ!」

にこにこしているグニュウを見て、ポコルンはほっと息をついた。

「グニュウはこの創造部で生まれました。センターで初めて生まれた、万能生物でございます」

「万能生物って、どんな生き物なの?」

「大きな特徴としては、体がやわらかく、いろんな形に変化できる点です。二足歩行が可能で、体を羽やひれのように変化させることができます。骨格を軟骨状態に変化させることで、最大では液体に近い状態にまで変化することもできます。さらに、カメレオンやタコのように、周囲にとけこむことも可能です。また、人類同様、透明な葉緑体を持つため、光合成代謝が可能です。あらゆる物質を分解し、エネルギーに変換することができ、すこしの物質があれば活動できますし、水や日光があればさらに活動量は上昇します」

「へー、すごい」

「熱や寒さにもとても強く、滅多なことでは死にません。また、2体までなら分裂することが可能です。合体することで、分裂体が見た景色や行動のすべての記憶が、本体へと統合されます。ただし、疑似核のみしか持たない分裂体は、10日以内に合体しないと、融解、消滅してしまうため、注意が必要です」

「そうなのよ。初めて聞かされた時は驚いちゃった。気をつけなきゃ」と、ネルルが言った。

「老廃物はすべて液状であり、かつ無毒、排出されると瞬時に空気中へと気化します。

良く慣れ、賢く、正確な言葉こそ話せませんが、こちらが話していることはおおむね理解しています」

「そう。グニュウは賢いんだぜ」

「寿命は200年ほどと思われますが、老化現象はほぼ起こらないと考えられています。こちらのセンターで私ポコルンと3か月ほど暮らしておりましたが、偶然センターを訪問されたネルル様になついたため、グニュウをお任せすることとなりました」

「グー……ニュウ!」

 グニュウは思い切り勢いをつけて、ネルルに飛びついた。

「おっと!」

ネルルはグニュウをうけとめると、頭を優しくなでた。

「ポコルンには悪いことしちゃったわね……。せっかくあなたになついてたのに……」

「——いいえ、ネルル様、これでいいのです。私どもロボットとは違う、生命体と触れ合うことが、グニュウの幸せにとって必要なことなのです。それに、ネルル様でしたら、私どもも安心して任せられますから……」

「……ありがとう。大切に暮らすわ」

 その時、ピピピピピ、という音が、ポコルンの体の中から聞こえてきた。同時に、ポコルンの体の中心に横長の穴が開き、そこから印字された紙が長々と出てきた。どうやら渡の情報が書いてあるらしい。

「渡様の遺伝情報より、家系図、略歴、交友関係、性格等、わかる範囲でのデータ情報が出ました」

ポコルンは紙を持ちながら、一通り目を通していった。

ところが、ある個所を見て、あっ! と驚きの表情になった。

そればかりか、腕がぶるぶると震えている。

ポコルンのただならぬ様子に、ルーキオは固まってポコルンを見た。

「おい! どうしたんだ? ポコルン!」

「……略歴をご覧ください」

ルーキオは紙を受け取って読み上げた。

「なになに……? えーっと……。0歳、オギャーと生まれる」

「おぎゃーと生まれる?」 渡は思わずふきだした。

「さらに下です。24歳の項目」

「24歳……24歳……と。あった! 

24歳、ネルル・ポログレインと結婚。ネルル・ポログレインと……結婚?」

ルーキオと渡は、驚きのあまり顔を見合わせると、ネルルの方を振り返った。当のネルルは、ぽかんと口を開けたまま、二人を交互に見返した。

「ちょっと待って! それ、私のことじゃない! 私と……結婚?」

ネルルは、困惑しているようだった。

「過去の人物の渡と、どうして私が結婚してるの? ——それで、結婚って何?」

 5章 2