4章 2

「そうですか! では……オホン! センターについて、当センター長であるポコルンが少しばかりお話いたします。まず始めに、センターの存在意義について。

センターは世界各地に存在しており、主にポコルン型ロボットと人類が共同で管理を担っています。すべてのセンターは、人類を含む、生命体の存続と発展のために作られたものであります。

そのために、ありとあらゆる情報の蓄積、技術革新、様々な研究がセンターで行われ、成果を全世界に発信しております。発表可能とみなされたすべての情報、研究成果が速やかに共有されているのです。

次に、センターの活動内容をお話します。

まず一つ目の情報についてですが、情報の蓄積と共有可能性を維持しております。

大前提として、知りうる限りの宇宙や地球の活動に関するもの……つまり、気候なども含む地質学的な歴史、生命史、人類史、物質の移動の歴史等の情報を保管しています。

さらに、生命体各種、各個体、また各人の遺伝情報と遺伝子、細胞の一部、体験の記憶、さらには睡眠時の夢に至るまで、収集可能なありとあらゆる物質、記憶情報を保管しております。

このような、情報と生命体の細胞の一部の保管が、センターの第一義的役割、生命の存続を図るために必須となっているわけです。

二つ目は、研究機関としての機能です。センターにもよるのですが、部署としましては、宇宙部、時間部、空間部、物理数学部、再生部、記憶体験部、自然科学部、生物科学部、生活部、環境部、医療部、変身部、超常現象部、人文部、創造部、古代研究部、未来研究部、機械部、ロボット部等々があります。

さらに、それらの研究を網羅的、包括的に研究する総合部も、当センターにはございます。

これらの研究機関の重要な成果の例としては、見かけ上の不死、あるいは蘇りの達成が挙げられます。再生部において、生命体の素粒子組み立てが可能となったことにより、内実的に、死を克服することに成功しました。

また、変身部では、遺伝的情報や記憶情報から研究、実験を重ねた結果、ありとあらゆる動物に変身することが可能となりました。体を改造し肉体を強くすることも、変身部の貢献が大きいです。ここにいるグニュウは創造部、再生部、生物科学部、変身部などが力を合わせて生み出した、万能生物です。

体験部では、脳に直接働きかけることで様々な追体験が可能となり、現在は単なる映像だけではなく、五感を通した⦅実感⦆を獲得することも可能となっています。この体験は、人間だけではなく、全生命へと応用可能です。

また、タイムマシンの開発は、時間部、空間部、物理数学部、古代研究部、未来研究部、宇宙部、機械部などが共同開発を行い、完成させました。

このように、人類はセンターとともに発展してまいりました。

すべての部署が、様々な成果を挙げています。今後におきましても、センターは人類、生命体の存続と発展を目指し、活動していきます」

目的の部屋の前にはもうとっくについていた。

長々と続いていたポコルンのお話が、ようやく一区切りついた。渡が唖然としていると、ネルルが口を開いた。

「簡単に言うと、科学は発展し続けているってことね。重要なのは3つくらいあるわ。

1つ目、人類は見かけ上の不死を実現した。酸素、炭素、水素、窒素といった元素から人間を組み立てる技術が確立したことで、本人と同一の個体を生成できるようになったわ。さらに意識や記憶に関しても、脳に実感として追体験させることにより、見かけ上の不死——正確に言えば、復活を実現したの。 2つ目の変身技術ね。

全細胞を、あらゆる生物の遺伝情報を持った細胞に入れ替え、さらに細胞の質や数、大きさを変化させることができるようになったことで、変身が可能になったわ。

3つ目は、違う時空間への移動。ワープやタイムマシンの発明ね。宇宙開発にも役立っている。ざっとこんな感じかしら」

「すごい!」

まさかこれほどまでに未来が進歩しているとは思いもよらず、渡は思わず拍手した。ポコルンはまんざらでもない表情で、軽くお辞儀した。

「まあ、そういうことだ」

ルーキオは、話が終わったのをみはからって、ずっと手を置いていた扉のノブを回した。

部屋の中央には巨大なモニターがおいてあり、壁一面を覆うように、たくさんの機械がチカチカと明滅していた。モニターの前には、机といすが置いてある。

「さて、どういたしましょう?」

「まずは渡の記憶を見たいわ」

「かしこまりました」

ポコルンの体が上に伸びたかと思うと、下の胴体から雪だるまの球が1つ増えた。それから、その玉の横が丸くあいて、腕がニュッと出てきた。ポコルンは、グニュウを連れたまま、なにやら頭にかぶるような装置を部屋の隅から持ってきた。

「ニュ?」

「記憶再生装置でございます。今回は視覚のみの共有ということでしたので、モニターに映す形式となっております。では、渡様、こちらをかぶってください」

 ネルルが装置を受け取り、渡の頭にかぶせた。

「ちょっと! なんなのこれ?」

「いいからいいから。さ、座って」

「あははは、これですべてが明らかになる! 見極めてやるぜ、おまえの正体をな!」

「ポコルンまだー?」

「ウル?」

「お待たせいたしました。放送開始いたします」

「やった!」

 ネルルは、まるで映画を観に来た子供のような無邪気さだ。ポコルンがピッとリモコンを押すと、モニターがブゥ……ンとついた。

「ポコルンも拝見いたします」

「そうそう、ポコルンには渡がどの時代の人間か、判定してもらわないと」と、ルーキオ。

「始まるんるん♪」

 渡はドキドキして画面を見ていた。すると、中学校の頃、運動会で徒競走している渡が映った。それも、視点は主観ではなく、まるで空中からビデオでとられているかのようだった。

「僕が映ってる! なんで?」

「負けてるじゃん」

 渡より先にゴールが切られ、走り切った渡は膝に手をついて息をしていた。ふと、画面が切り替わった。今度は大学の学食で、サークルの友達と話している所だった。

「ポコルンが説明いたします。こちらの機械は脳にアクセスすることにより、記憶をランダムに映写することが可能となっております。視点に関しても、記憶を相補的に統合することにより、見やすい位置から映し出すことが……」

「ポコルン、ちょっと静かにして」と、ネルルが言った。

「大学の学食だ!」

「大学? 学食? ポコルン、検索を頼む」

「——検索開始」

 次に映ったのは、なんとモコだった。まだ子猫の時で、渡の後をついて回っている。

「あっ! モコだ!」

「モコ?」

「友達だった猫の名前」

次に映ったのは電車の中で、車窓からは富士山が見えていた。

「大きい山ね。あの山は何?」

「富士山だよ。旅行中に見たんだ」

「ふじさん……? ポコルン、検索だ」

「富士山——検索完了。この山は古代日本の山で……」

「ポコルン、報告は後でね。……あれは何?」

「……ダンス」

 モニターには授業のダンスの練習をしてい渡が映し出された。渡は恥ずかしくて、さっさと次に行ってほしかったが、こんな時に限って長く映し出されていた。

「はははは、変な踊りだな! ポコルン、動きから検索だ」

「かしこまりました」

次に映し出されたのは、夜の墓場だった。白いシーツを来た男が、渡を追いかけている。

「ひょー! こりゃなんだ?」

「肝試し」

「おばけ? ポコルン、肝試しで検索ね」

「……」

次に映ったのは海だった。渡は、沈む夕日を海辺で眺めていた。高校2年の頃だ。

「海ね」

「そう」

「海は俺も好きだぜ」

最後は、観覧車にのっている所だった。オレンジ色の観覧車にから、街を眺めている。

「これは?」と、ネルルが聞いた。

「観覧車。景色を眺めるんだ」

「楽しそうだな。ポコルン、観覧車を検索だ」

「はい」

映像はそこで終わった。

「ランダムな映像はこれくらいでいいだろう。あとは直近4時間前の、本人視点の映像を見せてくれ」

「かしこまりました」

ポコルンが、ピッとリモコンを操作した。すると、ちょうど渡が階段を下っているところが映し出された。完全に渡が見た景色と一致している。

「あっ! ここ!」

「もう少し巻き戻すか。ポコルン、さらに10分前」

 すると、占いの建物を眺めている渡が映し出された。あたりは夜だ。

ルーキオは、その様子をまじまじと観察した。

「ふーん……こういうところか。特になんていうことはないな」

「そうね」

「それじゃポコルン、早送り。15分後」

 ちょうど、渡が階段を下り終わり、占いの部屋を見つけたところだった。おかしな目のレリーフを見つけた後、扉を開け、中に入ってゆく。

占い師に近づき、差し出された水晶玉を見つめると、宇宙空間の中に星が浮かび、そしてまた、ネルルの自転車が近づいてきた。

「話した通りでしょ?」と、渡はルーキオに話しかけた。ところが、ルーキオは、言葉が耳に入ってこないらしく、食い入るようにその様子を眺めている。

「ポコルン、5分巻き戻し」

「かしこまりました」

 ルーキオは気になることがいくつもあるらしく、渡が未来に来る映像を3回見直した。

ネルルが飽きて、うとうとし始めたころ、ようやくルーキオは映像を止めた。

「お兄ちゃん、何かわかったの?」

「いや……。いろんな疑問点が浮かんできただけだ。お前もそうだろ?」

「そうね。ま、お兄ちゃんほどじゃないだろうけど」

渡を除いた3人は、一体何を見たのかと考え込んでいた。

「まあとりあえず、ポコルンにそろそろ時代検索をしてもらいましょ」

「かしこまりました。渡様、検索するにあたって遺伝情報を調査したいのですが、細胞をいくつかいただけますでしょうか?」

「うん、いいよ」

「では、腕を出していただけますか?」

「わかった」

 渡が腕をポコルンの前に差し出すと、ポコルンは渡の腕を軽くつかみくるっと手のひらでこすった。ポコルンの体に四角い穴が開くと、ポコルンはそこに手を突っ込んで、しばらくしてからまた出した。

「……おわり?」

「はい。渡様の細胞と遺伝情報は、ポコルンに保管されました。これより検索を始めます」

ポコルンの検索が本格的に始まった。ポコルンは目を閉じ、じっとしているだけに見えたが、ポコルンの体からは、カシャッ! カシャッ! と何やら計算したり照合しているらしい音が聞こえた。ネルルとルーキオは、わくわくした表情でポコルンを見ていた。

「ポコルンにしては長いわね……」

 10分ほど経とうとする頃、ネルルがぼやいた。ルーキオも、狸寝入りを始めていた。

その時、チーン! という音がして、ポコルンが目を開けた。渡は、ルーキオをゆすって起こした。

「検索完了。すべての情報から考慮して、渡様は推定8200万年前の人物だと測定されました」

「8千……200万年前!?」

 3人は、あまりに予想外の答えに、驚きを隠せなかった。

「8200万年前って……それじゃ、渡は旧人類ってこと?」と、ネルルが聞いた。

「そうなります」と、ポコルンはこともなげに答えた。

「だが、待てよ……! そうなると、こりゃいよいよ謎が深まるぜ。旧人類をこちらに送り込んで、何が目的なんだ?」

「ちょ、ちょっと待って! いったいどういうこと? 8200万年前だとか、旧人類だとか! 理解できないよ!」

 すると、ネルルは、あわれんでいるのか、それともとまどっているのか、なんともいえない表情で渡を見た。そして、何かを言いかけて口を開いたが、言葉が出ないうちに、また閉じてしまった。

「ル? ル?」

 グニュウも理解が追いつかないらしく、ポコルンの頭の上で体をゆすっている。

「ちょっと整理させて。まず、君たちは未来人なんでしょ?」

「ああ」と、ルーキオがこたえた。

「ということは、君たちは僕らの遠い子孫なんだよね?」

「ええ。そうなるわ」と、ネルルがこたえた。

「でも——旧人類って? それじゃ、僕らって……」

「……隠しても無駄のようね。ほんとは重要な歴史は教えちゃいけないんだけど……。

そう、あなたが思ってる通り……人類は一度滅んだのよ」

「えっ!?」

5章1